インド古典舞踊モヒニアッタム入門講座

 解説 丸橋広実

インドには様々な古典舞踊があります。東インドのオデッシィ、北インドにはカタック、 南インドでもタミールナドウ州にはバラタナティアム、アンドラプラデーシュ州にはクチプディ、そしてケララ州のモヒニアッタムなどそれぞれの土地に根ざした踊りがあります。 それらは共通する部分もありますが、まるで異国の踊りのような違いがあります。
 “モヒ二”は魅力的な女性を意味し、“アッタム”は踊りを意味します。美しい女性が神々を魅了する様を舞踊化したものです。独特な目の動きと手の表現を操り感情豊に表現されます。身体を柔らかく途切れることのない動きはヨガにも通じています。大地を踏むことで大自然とのつながりを感じるでしょう。 ケララ州は海あり山ありの自然の豊な楽園です。椰子の木の揺れる様子や稲穂が風になびく、波がうねるなどの自然の営みが踊りの中に生きています。

ケララ州の風景1
ケララ州

1.練習の服装
身体にぴったりしたブラウスと足首まで隠れるパンツ。練習用ショートサリーを巻きます。 サリーは6メートルもあるのですよ。

2.基本のポーズ アラマンダラム
両手を腰に当て両方の踵の間を、手のひらを広げた大きさに立ち、膝を外側に広げて中腰になります。下半身には堂々とした男性の神様が宿り、上半身はしなやかな女性の神様が宿ると言われています。インドでは膝と膝の間に木の棒を挟み落ちないように中腰を続けるのを1時間毎日やらされました。もう膝ががくがくでした。


基本の姿勢

3.目の運動
目が自由に動くように訓練します。瞼を吊り上げ目を大きく見開きます。上下、左右、円を描く、斜め、八の字など、頭は動かさず、瞼を閉じずに黒目を動かすようにします。また、眉毛を上下に動かす。インドでは動きを良くするために目の中にゴマ油を注いで、目の運動を毎朝一時間、とても痛いですが効果があります。まさに修行僧の感じ!

4.手の表現
24種類の手の表現(ムドラ-)のそれぞれに意味があり、組み合わせで900種類以上の言葉が生れます。例えば日本の狐の形はインドでは鹿になるとかの違いはありますが。まさに手話の様にいろいろな言葉があるため、インドで言葉が通じなかった頃は、師匠とはムドラーでコミュニケーションしました。「今日どこそこに行って誰それに会った」とか「お昼を食べる時間がなかったのでお腹がすいた」とかなんでも表現できるのです。便利ですよ。


鏡を見る様子


鹿

5.感情表現
恋愛、悲しみ、怒り、恐れ、勇敢、感動、失笑、嫌悪、平安などの9つの感情表現があります。日本人は感情を表現するのが苦手ですよね。でも、踊りの中だけはオーバーに表現することで内にこもっていた感情が消化でき、自分のことが客観的に見えてきます。日頃の表現に変化が出てきて人間関係が変化するかも。新たな魅力を再発見できるかもしれません。


失恋の悲しみ


怒り

6.アダウ
基本となるステップ。流派によって数は異なる。50から100あります。下半身を安定させて大地を踏みしめ、上半身を流れるようにとどまることがなく動かすために気持ちかとてもいいです。そして、ウエストが細くなること間違いなし!身体が固い人も踊ることで柔らかなしなやかな身体に!

7.曲
基礎ができたら曲の振り付けを覚えます。
<ガネーシャストゥディ>象の顔をもつガネーシャ神に捧げる踊り。舞台の成功を祈ります。
<チョルカッタ> 神々への祈願をゆるやかなテンポで踊る。モヒニアッタムの基本の動きが取り入れられている。
<ジャティシワラム>ステップ中心の踊り。
<ヴァルナム>動きと美しい表現が混じりあい、踊り手の実力の見せ所となる。
<パダム>身振りの表現による小作品。神様に恋するヒロインの想いがテーマになることが多い。
<ティラーナ>様々な拍子によって踊る華やかな踊り。
 基本的には踊り手はソロで1時間半から2時間プログラムにそって踊りますが、変化をつけるために何曲かをグループで踊ることもあります。


8.舞台衣装と化粧
髪の毛は左上のほうに結います。周りにジャスミンの花を飾ります。その他髪飾りで華やかに飾ります。お化粧は日常から離れて神様に近づいていくたいせつなたいせつな儀式、目元を中心に濃いお化粧を施します。第3の目と言われる額の中心に赤い印をつけます。手や足の指先も朱で染めます。衣装は白に金を縁取ったものだけに限られます。ケララ州では正装は白地に金と決まっているのです。けれども、そのおかげでよく日本人の観客の方には「一着しか衣装を持ってないの?」と聞かれてしまいます。「違います。全部同じですがたくさん持っています」

9.なぜ日本人がインド舞踊を踊るのか?
“私が”踊るのではなく“私でも”そう日本人でも踊らせて頂けるのがインド舞踊なのです。日本において失われたもの、欠けているものも含め、懐の深いインド舞踊は様々なことを教えてくれます。

写真提供 小山克行 阪井三智江